論文等(1998年以降のもの)
2023年12月発行の現代法学45号に論文「説明義務と適合性原則の系譜」を掲載。
https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/11939/1/genhou45-08.pdf
本稿は、証券取引訴訟の重要論点である説明義務と適合性原則について、上柳敏郎弁護士 の足跡など一次資料を中心に生成発展の歴史をまとめるとともに、現在の姿を2023年金商法等改正や仕組債訴訟等に焦点を当てて描いたものである。
第1説明義務の歴史では、ワラント弁護団・全国証券問題研究会と日本弁護士連合会消費者問題対策委員会の活動から「説明義務違反による不法行為」の判例形成(1996年東京高裁判決など)までたどり(1991年~1997年)、引き続いて、日本版ビッグバン前後における「新しい金融の流れに関する懇談会」、金融審議会第一部会「中間整理(第一次)」、日本弁護士連合会意見書のやりとりを整理した(1997年~1999年)。制度的節目は、この後に来る金融商品販売法の制定(2000年)であり、同法では「説明義務違反による損害賠償責任」を規定した。その法案審議における参考人意見陳述を紹介して、同法では「説明義務違反による不法行為」の判例法理より説明義務の範囲が狭く説明の程度が形式的であることなど問題点を確認し、さらにその後の2006年改正で解消された問題点と残された問題点を切り分けた。そして、それと並行した時期(2001年、2008年)の、信用リスクの説明義務が争点となった判決を2件紹介し、それらが同法制定・改正の影響を間接的に受けながらも、「説明義務違反による不法行為」の理論を深化させていった状況を解説した。
第2説明義務の現在では、まず、「説明義務違反による不法行為」に関する最高裁判決、司法研究報告を紹介した後、2023年金商法等改正法案における説明義務の扱いを解説した。最後に、最近増加している仕組債事件における「説明義務違反による不法行為」について検討した。
第3適合性原則の歴史では、まず同原則が米国の証券取引規制にルーツを持ち、日本では、大蔵省通達「顧客本位の営業姿勢の徹底について」を経て1992年に証券取引法に規定され、平成17年最高裁判決によって、その違反は不法行為となることがあるとして民事責任との架橋がなされて、その判示内容を受けて翌年(2006年)改正の金融商品取引法で、適合性判断の考慮要素として「金融商品取引契約を締結する目的」が追加された経緯を整理した。次に、その翌年(2007年)の東京高裁判決が、適合性原則(顧客適合性)に関する最高裁判決を理解したうえで、過当取引の要件を認定して適合性原則に違反する一任取引であるとして適合性原則を量的適合性に広げたことを指摘し、その後の裁判における量的適合性の定着を示した。その少し後の2010年から2015年にかけて、欧米と日本において、合理的根拠適合性(商品適合性)が適合性原則に含まれる概念として明確になっている。
第4適合性原則の現在では、3段階適用(商品適合性⇒顧客適合性⇒量的適合性)の構造を確認し、販売段階の合理的根拠適合性について、日本証券業協会の自主規制規則等2023年改正の内容を紹介した。最後に、仕組債事件における「適合性原則違反による不法行為」について検討した。
近年普及している「キャッシュレス支払い」の構造・法制度について、消費者の視点から、現実の消費者問題も踏まえて検討した。
https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/11789/1/genhou43-05.pdf
2022年4月8日の日本弁護士連合会消費者問題対策委員会主催シンポジウム「多様化する支払い手段の光と影-キャッシュレス時代の消費者問題」における筆者の報告の基礎となったものに、その後の資金決済法の改正や実態の変化を踏まえて加筆したものである。
まず、キャッシュレス支払いの構造の可視化を試みたうえ、複数の関与者が重層的に関与する場合の問題点を指摘し、組込み型支払いではその問題点の一部が増幅されることを指摘した。次に、資金決済法、銀行法等の2022年改正を踏まえて、支払い法制の消費者法的課題を検討した。最後に、キャッシュレス支払いに関する消費者問題について、7類型に分けて、類型別に被害予防、救済についての方の適用と解釈、立法論を検討した。消費者問題に対し一定の対応が可能な類型もあるが、容易なものは少なく、制度的対応が必要なものが多いことが確認された。
有料老人ホーム入居一時金の一部を初期償却して不返還とする条項(不返還条項、初期償却条項)について検討したもの。
https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/11382/1/genhou37-04.pdf
この条項は、制度が変わっても理由を変えて存続してきているものであり、現在は、「想定居住期間を超えて居住継続するリスク」に備える保険的なもの、すなわち、想定居住期間を超過しても新たな賃料は不要となるという対価を得るために、保険料代わりに不返還とすると説明されている。しかし、これは従来から続いている不返還について、新たな理由をこじつけているに過ぎないといえる。
仮に保険的なものであることを前提とすると、この条項は、新種の生存保険と比較して著しく射幸性が高いうえ、不合理、不公正であることを指摘し、消費者契約法10条の問題として検討した。そのうえで、最近の英国の状況を紹介した後、長寿化、有料老人ホームの倒産の増加、新種保険の登場などを踏まえると、日本の有料老人ホーム入居契約においては不返還条項を使用させないことが妥当であると結論付けた。
講演録「投資被害救済の法理論」を『先物・証券取引被害研究第49号』(先物取引被害全国研究会 2019年11月)19頁~35頁に掲載。
2018年9月7日第58回全国証券問題研究会岡山大会での講演をまとめたもの。被害救済の法理論の全体像を確認した後、投資判断と投機判断について詳細に検討し、それを踏まえて、適合性原則について、1意義、2業者ルールと民事ルールの交錯の歴史、3顧客適合性の考慮要素と判断枠組みを考察した。
判例評釈「毎月分配型投資信託の受益証券販売する銀行・投信会社の説明義務」を私法判例リマークス54(2017上)(2017年2月)38頁~41頁に掲載。
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7366.html 東京高裁平成27年1月26日判決につき事案、判旨、先例・学説を紹介し、評論をしたもの。
http://www.minjiho.com/shopdetail/000000000906/029/007/Y/page1/recommend/
消費者被害の多くは、勧誘されて不当な契約を締結したことによる被害である。消費者が不当な契約を締結してしまうのは、契約時点では不当な内容と思わないか、不当な内容と思ったが契約することへの圧力がかかったかのいずれかかである。消費者契約法に規定する誤認類型は前者の一部を対象として取消権を消費者に付与している。誤認類型で消費者が不当な内容の契約について不当であると思わない理由は、不実告知があるとそれにより誤った事実を前提として判断するからであり、断定的判断提供があるとそれにより不確実な事項について確実であると誤信するからであり、利益となることを伝えて不利益事実が告知されないとそれにより実際より有利であると誤認するからである。2016年改正(施行2017年6月3日)で追加された過量契約取消しの規定は、認知症等により不当であると判断できない場合についてのものである。
消費者が不当な内容の契約について不当であると思わない理由はこれら以外にもあり、その一つが、人の判断の癖や傾向を利用した商品設計や勧誘である。本稿では、この場合について、その消費者被害(投資被害に限らない)回復のために行動経済学的知見をどのように活用できるかを検討した。
「4 消費者被害救済への活用」の小項目は次のとおり。
(1)相談対応
(2)事実認定
(3)違法性など (A)限定合理性を利用した勧誘、(B)過当取引、事実上の一任取引、(C)一連一体の不法行為、(D)断定的判断提供等、(E)適合性原則における投資意向、(F)詐欺的商法、(G)選択と不当条項性、
(4)過失相殺
デリバティブを組込んだ仕組商品について、米国の動きとして発行者評価額(時価)開示の規制状況、EUの動きとして仕組証券意見書(ESMA)、第2次金融商品市場指令(MifidⅡ)、英国の動きとしてFCAの行動経済学的調査報告書などを紹介し、それらを踏まえて日本における仕組商品規制の在り方を論じたもの
http://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/10778/1/genhou30-12.pdf で全文を見ることができる。
「デリバティブ商品の販売勧誘規制の問題点」 2015年2月 現代法学28号
英文。2013年7月に開催された国際消費法学会シドニー大会における報告の基礎となった論文に、その後の裁判例等を追加して改訂したもの。欧米、アジアにおけるデリバティブ商品被害の概要を整理した後、日本において2010年、2011年に改定されたデリバティブ商品勧誘規制の内容を紹介し、デリバティブ商品の特質(構造が複雑で、大きなコストが隠れていても気づきにくいこと、限定合理性が利用されていることなど)からするとそれでは不十分であって、不招請の勧誘を禁止するべきであることを指摘するもの。http://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/7653/1/genhou28-10.pdf で全文を見ることができる。
An Analysis of Structure Products Litigation from the Viewpoint of the Fair Price Formation Function of the Marketplace
仕組商品はデリバティヴ取引と同様、資本市場機能を有しないが、それだけでなく多くのデリバティヴ取引が有するリスクヘッジ機能も有しないので、市場から見た仕組商品取引は、その価格が公正に形成される限度で存在が許容される取引と位置づけたうえ、仕組商品に関する判決を検討し、判決に2つの流れができていて、その分かれ目は商品特性に踏み込むか否かにあることを指摘した。そのうえで、仕組商品の商品特性を検討して、コストやリスクが大きいことに気づきにくい点を指摘し、市場の価格形成機能から見ると、販売対象の限定、コスト等の開示、コスト率の限定のいずれかが必要であるとしたもの。
デリバティブを組込んだ仕組債などによる被害について、被害と救済の実情、商品性、訴訟の争点を解説し、検討を加えたもの